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02.Hometown

―果てのない草原に、僕は立っていた。 
辺り一面花で覆われ、美しい青空が広がっている。 
風がそよぎ、花が揺れる―

「……ア………アッシュ…………」

何だろう。 
辺りを見回しても誰も居ないのに、ずっと誰かに呼ばれている気がする。

「……ッシュ……きて………アッシュ…」

何故だろう。とても不安な気持ちになる...。 
ここはひどく居心地が良い。全てが美しいもので満たされている。

なのに、心がざわつく。

このままここにとどまっていていいのだろうか…

このまま………

僕は……………

……………

……

 

「起きて!アッシュ!!」 
「はっ!!!」 
「やっと起きたわね」 
「……ゆめ…だったのか」

目の前には幼馴染であるエニスの顔があった。

「うなされてたから心配したのよ?大丈夫?」 
「あぁ、大丈夫だ…」

アッシュはそう言いながらベッドから起き上がった。 
窓からは上の方に昇り始めている日の光が差し込み、風でカーテンが揺らいでいる。 
どうやらいつもより少し寝過ぎたらしい。

「もう朝ごはんできてるわよ。今日はおばさんの美味しいスープに、トーストに、私特製のジャムよ!」
「…どうせ昨日の夕飯の残り物だろ?」

そう言いながらも、ちっとも嫌そうじゃないアッシュにエニスは微笑んだ。 
それを見たアッシュは少しムッとし、そそくさと照れ臭そうに階下へ降りた。

 

「おはよう、アッシュ。よく眠れた?」 
「おはよう、おばさん。それからおじさんも」 
「あぁ、おはよう」

いつもと同じように挨拶をかわす。 
でもそれが僕にとっては特別な日常だ。

幼くして両親を亡くした僕は、隣に住むおじさんとおばさんに世話をしてもらっている。 
血が繋がっているわけでもないのに、自分の子供のように接してくれる。

オルドノイエは植物が育ちにくく、人が生きて行くのに苦労する。 
この村も他と比べて植物が育ちやすい地域とはいえ、例外ではない。 
にもかかわらず、たくさんの愛情を僕にくれた。 
本当に感謝してもしきれない。

「アッシュ?なにボーッとしてるの?ご飯冷めちゃうわよ?」 
「……あぁ、食べる」

気がついたら隣に座って、先にご飯を食べ始めているエニスの声に思考は止められた。 
全く、エニスは世話焼きで心配性なんだから。 
ちなみにエニスも僕と同じ理由でここで世話になっている。 
本当、この老夫婦は優しすぎる。

「アッシュ、朝ごはんを食べたら狩に行こうと思うんだが、手伝ってくれるか?」 
「えぇもちろん。楽しみです」 
「それなら私も行くわ!アッシュ1人じゃ心配だもの。おじさんいいわよね?」 
「あぁ、構わないぞ」 
「ありがとう!じゃあアッシュ、狩に行く前にお墓参りして行きましょ!」 
「………」

本当、心配性なんだから。

 

村から少し外れたところに、小さな墓地がある。 
ここに僕の両親はいる。 
アッシュは静かに手を合わせ、今日の挨拶をした。 
エニスは近くに生えていた花を2輪取ってきて供え、静かに歌を口ずさみ始めた。 
本人曰く、昔からの歌だそうだ。 
今は使われていない言葉だから何を言っているのかは全くわからないが、歌っている表情はとても穏やかで楽しそうだ。

「………さ、挨拶もしたし、おじさんのとこに行きましょ!」 
「あぁ、行こう。……足手まといになるなよ」 
「それはこっちのセリフですー」

こうして、今日もいつもと変わらない時間が流れていく。 
そう、いつもと変わらない、とても暖かな時間。 
これからも続いていくだろう。 
そうでなくとも僕が守る。

 

ここは僕の、大切な「家」だから。

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