top of page
Party2.ローズ

アッシュとエニスとレオニスの3人は道を歩いていた。 
襲ってくるアンセクトたちは、一向に減る予感がしない。 
そして、この荒廃したオルドノイエには考えられなかった植物も、だんだんと増えつつあった。 
それだけあの奇病にかかる人間が増え、そしてアンセクトに襲われている、ということか。 

「なんだかここ最近連戦ばかりで疲れたね!!まだ王様のところにはつかないのかい?全く、彼らも意地が悪いな!!」 
…意地悪とかの問題ではないと思うのだが、相変わらずレオニスは元気だ。 
「大丈夫?ここら辺で少し休憩する?」 
「ん?あぁ!是非休憩したいね!」 
「そうだな。少し休もう」 
エニスの一言でそれぞれ休憩の態勢を取ろうとしたその時、

ジャリ… 

地面の砂を踏む音が聞こえた。 
場所は背後の岩陰辺り、か…? 

一同身構える。 
先程倒したアンセクトたちの残党か…? 
それとも新たな群れか… 

 


先に動いたのは向こうだった。 
アッシュも遅れまいと岩陰の方へ攻撃を加えようとした。 
…が。 

「「「?!」」」 

びっくりした。岩陰から出てきたのは、まだ幼い少女だった。 
アッシュはすんでのところで剣を止めた。…殺してしまうところだった。 

少女はアッシュをまっすぐ見つめていた。 
やがて彼女はニヤッと笑ったが、それは外見と内面がちぐはぐなものだった。 
…異常に大人びてる。 
アッシュは剣を構えたまま、暫く動けなくなった。 

 


「妹と同じぐらいの歳の子だね!大丈夫かい?」 
 


空気を動かしたのはレオニスだった。 
アッシュは、はっとし、すまないと言いながらやっと剣を下ろた。 
しかし、当の本人はさっきとうって変わって目が虚になった。 
どうしたんだ? 

「…殺してくれて良かったのに」 

「……は?」 
―なんなんだ。 

「斬りつけて欲しかったって言ってるんです。折角のチャンスだったのに…」 
「何を言っているの?!そんなこと、嘘でも言っちゃダメ!」 
エニスが諭す。 
「なんで?」 
「なんでって…。あなたの人生はまだまだこれからなのよ?こんな世界でも、きっと素敵な未来が待っているはず。それにご両親が悲しむでしょう?」 
「両親はいないわ」 
「あ…ごめんなさい、私…」 
「なんで謝るの?」 
少女は腑に落ちない顔をした。 
「それに、素敵な未来っていうのは、人によってそれぞれ違うと思うのだけれど?」 
エニスはどうしたらよいかわからず、アッシュの方を向いた。 
こちらを向かれても、どうしたらいいかなんて僕もわからない。 
そもそも、両親がいない少女がこんなところで何をしているんだ? 
身寄りがないなら、僕たちが近くの村まで連れて行くのが最善かもしれないが、おそらく、今、余所者を養えるような村はないだろう。 
どうしたものか… 

そうこうしていると、ひらめいた!と言わんばかりの、場にそぐわない明るい声が響いた。 

「1人でこんなところをうろうろしていては危ないね!そうだ!私たちと一緒に旅をしよう!!」 

((あー、コイツ、言いやがった)) 

レオニスはにこにこしている。むしろ、アッシュとエニスの視線に「なにかね?」なんて疑問符を浮かべている。 
この歳で旅についてくるのは危険だと思ったから、アッシュもエニスもその案を口にしなかったのに。 
「旅…。さっきのお兄さん達みたいに、楽しそうにざっくざくする旅ならついて行きたいです」 
アッシュの方を見て、少女はにっこりしながら言った。 
ギクッとした。『楽しそうに』という部分、見透かされている。 
「危ないわよ?それでも…いいの?」 
「はい。それに、ここに幼い可愛い女の子を置いて行くほうがよっぽど危ないと思うんですけど。ね?」
アッシュとエニスは顔を見合わせる。 
「…はぁ、仕方がない。一緒に行こう」 
「本当ですか?!わーい!」 
「でも、殺してくれとか死にたいってのはダメよ!いい?」 
「自分でやるのもだめですか?」 
「ダメっ!」 
エニスが念を押すように言うと、少女はしゅんとした。 
「ちぇっ…。赤い色はとても美しいのに…」 

そういえば… 
「君の名前はなんだ?」 
「ローズって言います」 
「わかった。ローズ、これからよろしくな」 
「はい、よろしくお願いいたします!」 
歳相応の可愛らしい笑顔がアッシュに向けられた。 
なんだ。こういう顔も出来るんじゃないか。 

でも、とローズが続ける。 
「でも、先程の戦いは本当に美しい光景でした。斬りつけるたびに、赤い色に染まっていく…。ふふふ、本当に素敵。あーあ、私もあぁなりたかったなぁ」 
「ローズ!」 
「はいはい、わかってますよーだ」 
……この先、心配すぎる。

「ローズ君!是非、私の妹とも仲良くしてくれ!ほら、よろしくお願いしますと言っているぞ!全く、僕の妹は人見知りで声が小さくてね!あははは!!」 
「…さっきからなんなんですかこの人は。人形相手に」 
ローズがものすごく蔑んだ目でレオニスを見て言った。 
「…気にしないでやってくれ」 
「それは結構無理なお願いですね。いい歳してごっこ遊びとか、気持ち悪い」 
「あ、いや、この人は本当にそう思って…」 
「あはは!面白い冗談を言うね!気に入ったよ!!これからよろしくね!!」 
「……結構です」 

……どう考えても、この先心配すぎる。

bottom of page